野田秀樹芸術監督就任記念プログラム/松尾スズキ演出『農業少女』2010年03月17日 23時14分50秒

野田秀樹の戯曲を、野田演出よりも面白く見せた稀有な舞台。しかもそれが東京芸術劇場の芸術監督に就任した野田秀樹自身が仕掛けたものであるから見事。20年以上前、夢の遊眠社の舞台を観に行くことは野田秀樹の天才を確認しに行くことだと思っていた。作家としての、演出家としての、役者としての、劇団主宰者としての。芸術監督としてもまた然りか。

10年前の初演に役者として参加した松尾スズキが演出を務める。インタビュー等では笑いの重視を掲げていたが、実際の舞台ではそれ以上に野田演出にはない生々しさが特徴的に感じられた。野田演出に乏しいものが生々しさであるということは『パンドラの鐘』競演時(1999)に蜷川幸雄も指摘していたと記憶しているが、蜷川『パンドラ』以上に、松尾『農業少女』は野田戯曲に隠された生々しさを引き出したと思う(蜷川が野田演出を凌駕したのは『パンドラ』よりも『白夜の女騎士』(2006)だろう)。

初演時、野田・松尾が演じた山本と都罪(つつみ)にそれぞれ山崎一、吹越満をキャスティング。野田・松尾は優秀な役者であるがどこかに作家兼演出家としてのクールな佇まいが残る。そこが面白くもあるのだが、今回の舞台は純粋な役者体としての山崎・吹越が演じたことにより、男という種の狡さや哀しさが際立つ舞台となった。ヒロイン・百子には舞台初主演の多部未華子。初演時の深津絵里の技巧的な演技に比べ、素朴な分、リアル。少女の純粋さとあてどなさと残酷さを体現して◎。

3月13日@東京芸術劇場小ホール