京都南座・坂東玉三郎特別舞踊公演 ― 2010年06月29日 15時45分39秒
南座での玉三郎舞踊公演は平成6年に始まりこれで10回目だそうだ。私は平成8年の『京鹿子娘道成寺』(この舞台は生涯の宝物のひとつ)以来。演目は『由縁の月』と『重戀雪関扉』。最前列で玉三郎の様々な表情を味わう。
お馴染の『積恋雪関扉』は常磐津だが、今回の『重戀~』は長唄と義太夫の掛けあいという趣向。小町姫での玉三郎、まだまだ赤姫の装いが美しく似合う。空間を制圧する美貌という権力。傾城墨染登場シーンの幻想美から廓話の艶っぽさまでの振れ幅の豊かなこと。小町桜の精と見顕してからの所作ダテも迫力十分。
関兵衛実は大伴黒主には獅童。貫禄不足はやむを得ないが健闘。顔が大きく隈が映えるのが何より。国崩しというよりは奴さんのような愛嬌だけど(楽しいきこりさん?)。少将宗貞には隼人(錦之助の息子)、修行中。三人の手踊りが見どころ足りえないのはやむなし。『関の扉』は普通、実力の拮抗した三人で上演するのが常だが、若手+超若手を引き連れた玉三郎は、まるで『先代萩』の政岡みたいだった。
所見日:6月24日
コクーン歌舞伎『佐倉義民傳』 ― 2010年06月27日 17時42分59秒
進化/深化し続けるコクーン歌舞伎に感服した。
5年ぶりの新演目として取り上げられたのは『佐倉義民傳』(通常は『~伝』表記)。近年でもしばしば上演されるが決して人気演目とは言えない地味な作品だ。だが勘三郎&串田コンビは、これを優れて同時代的なものへと転生させた。鮮やかなコクーン歌舞伎マジック。
2009年の『桜姫』南米版/歌舞伎版連続上演の経験も踏まえてのことだろう、今回は脚本自体に大きく手を加えているのが特徴の一つ。マキノノゾミ門下の鈴木哲也が担当した脚本は、お坊ちゃんな領主・堀田上野介と現実主義の実力者=家老・池浦主計の組が鳩山・小沢体制を想起させたり、百姓たちを追い詰める年貢引き上げが今、真っ盛りの消費税論議に重なったりと、現在の日本の政治状況と分りやすくリンクしてリアルタイムな風刺劇の趣。
また、ややもすると説教臭く映りかねない主人公・佐倉宗吾(勘三郎)のカウンターパートとして、新たに駿河弥五衛門(橋之助)というキャラクターを登場させたことも成功。宗吾の言動に鼻白んでいた彼が、やがて非暴力に徹した理想主義者=宗吾の強靭さに感化されていく姿を描くことによって、物語に説得力が増した。
いとうせいこうが作詞したラップを導入したことも◎。奇を衒ったかのように見えるアイデアだが、なかなかどうして、この芝居に見事にはまっている。特にエンディングは、このラップをバネに、宗吾一家の悲劇をあらゆる市民運動、政治闘争へとリンクさせて圧巻。70年代アングラ/小劇場運動の系譜に連なりながらも、あからさまな政治性を示すことの少ない串田和美だが、やはりこうしたパッションはあの時代を生きた者に深く刻み込まれているのだろう。この熱に触れると、あのウェルメイドな手触りの『上海バンスキング』も、その底には猛々しく荒ぶる心が秘められていたようにも感じられる。
6月20日@シアターコクーン
歌舞伎座御名残四月大歌舞伎〔第三部〕 ― 2010年04月18日 23時35分15秒
歌舞伎座さよなら公演の掉尾を飾る御名残四月大歌舞伎、第三部を観てきた。20代の頃から通った馴染みの劇場とこれでしばしのお別れである。
『実録先代萩』。うーん、なぜ今月ここでこの演目? 亀千代役の千之助、千代松役の宜生が、何十年後かに「前の歌舞伎座の最後の月に僕たち共演したんだよね」などと語り合い、伝統を受け継ぐ責任を改めて感じる――、というような意味での価値しかないような。まあ、最も若い世代が活躍する演目があってもいいか。記念だし。
舞台に引き込まれなかった分、これまでこの劇場で観てきた様々な舞台に思いを馳せる。玉三郎『鷺娘』や猿之助と亀治郎の『連獅子』、『野田版研辰の討たれ』初演などは生涯の宝物となった。この劇場で初めて出会った友たちもいれば、思いがけず旧友と再会したこともあった。様々な思い出が詰まった場所――。
さあ、お目当ての『助六由縁江戸桜』だ。團十郎の助六に玉三郎の揚巻をはじめとした豪華版。この区切りの舞台に立ち会えたことを幸福に思う。
海老蔵の口上、十寸見会の河東節で幕が開く。冒頭の舞台を飾る傾城たちはちょっと若過ぎて軽いがこれも経験。そして玉三郎登場。圧倒的。花道七三での酔態は、上手奥の監事室前、1階客席の対角線上で最も離れた位置になる私たちの席にまで酒の匂いが漂ってくる様。意休への悪態でも見事な立女形ぶり。助六の出。大病と闘った團十郎が、今この場で堂々たる助六を演じていることを喜ぶ。團十郎の出端はあまりいいと思ったことはなかったが今回は大いに満足。この大劇場を背負う成田屋宗家の風格が客席を圧して上々。仁左衛門のくわんぺら門兵衛に三津五郎の福山のかつぎが付き当たる。何という贅沢。こんな配役はそうは見られない。白酒売新兵衛に菊五郎。さすがの名品。勘三郎の通人も仁左衛門襲名興行以来の御馳走。
これから3年間、歌舞伎座は改築休場となる。團十郎はこの期間を「大きな転換期」と位置付けている。3年後の開場公演には、どんな舞台に出会えるのだろう。様々な劇場で繰り広げられる新たな試みを注視しながら、その時を楽しみに待つことにしよう。
所見日:4月14日
歌舞伎座御名残三月大歌舞伎〔第三部〕 ― 2010年03月19日 23時37分38秒
「御名残」の文字がついた3月興行、歌舞伎座さよなら公演もあと2か月となった。第三部は13代目片岡仁左衛門と14代目守田勘弥の追善を兼ねた『道明寺』である。
勘弥の芸養子である玉三郎が、三婆の一つに数えられる覚寿に挑む。さすがに丁寧な演じ方で、菅丞相を何よりも大切に想う覚寿の目線で物語に立ち会う印象になり、観やすい。リアルに過ぎるという見方もあるのだろうが。
仁左衛門の菅丞相。今回が四演めとのこと。さすがに堂々たるもので当代の菅丞相はこの人と思わせる。私が前に観たのはまだ孝夫時代の初役の舞台。忘れもしない1995年3月20日の歌舞伎座――、日本中を震撼とさせた地下鉄サリン事件が起きた日だ。
前日から菊名の観劇仲間のアパートに泊まっていた私は、彼と一緒に日比谷線(!)で歌舞伎座に行くつもりだったのだが、すでに地下鉄は止まっていて、JRで有楽町へ。歌舞伎座まで歩いて行く間、妙に救急車がたくさん走っている日だなとは思ったものの、その理由は分っていなかった。役者たちは楽屋で事件のことを知っていたのかもしれないが、歌舞伎座の客席は平穏そのものだった。今なら安否を気遣う家族からのメールや電話に応える人たちで騒然となるのだろう。
あれから15年。今回の『道明寺』は仁左衛門の誕生日だった。
所見日:3月14日
歌舞伎座二月大歌舞伎〔夜の部〕 ― 2010年02月18日 19時33分11秒
“さよなら公演”もあと三月。今月は十七代勘三郎の追善興行でもある。
お目当ての『籠釣瓶花街酔醒』が、それにふさわしい充実ぶり。序幕・見染めの場がまず良い。玉三郎の八ツ橋の道中が圧倒的な美しさ。次郎左衛門ならずとも心奪われるというもの。勘三郎の次郎左衛門は、すでにこの瞬間から彼が狂い始めたのだと思わせる。
八ツ橋の間夫・繁山栄之丞に仁左衛門。玉三郎には仁左衛門がお似合いという以上に今回の栄之丞はいい。浪宅の場、ヒモ野郎が女が心変わりしたと疑い始めるというだけの場面なのに目の離せない面白さ。ブツブツ言いながら着替えている姿ですら魅せてしまう。廻し部屋の場、舞台が回って現われる、柱にもたれた栄之丞の姿がまた絶品。これが芸の力というものか。
情のある魁春の九重、秀太郎の立花屋女房おきつも良く、満足のいく『籠釣瓶』だった。
他に勘三郎・橋之助らの『高杯』、三津五郎・福助の『壷坂霊験記』。『壷坂』はつまらない話なので観るのをやめようかと思っていたくらいなのだが、三津五郎の巧さでそれなりの舞台になっていた。三津五郎に一度、『籠釣瓶』の次郎左衛門をやらせてみたい。
所見日:2月13日