トラン・アン・ユン監督作品『ノルウェイの森』2011年01月24日 20時48分54秒

日本での公開初日に映画館に駆けつけた。ものすごく映画的でありつつ小説世界に浸ったような満足感もあり。日本の映画ではないようでもあり日本映画黄金期の端正な美しさも備えている。

村上隆氏(=Twitterでこの作品を絶賛していた)の著書『芸術闘争論』の中に「作品作りは執念の具現化」という表現があるが、『ノルウェイの森』はまさにそのような映画だった。全ての場面、構図、カットが徹底的にこだわり抜かれている。そのこだわりは計算と呼ぶのは似つかわしくない、やはり執念と呼ぶしかないものだ。だからこそこの映画はとてつもなく美しい。

実は『ノルウェイの森』を観た翌日に、別の、一部ではとても高い評価を得ている映画を観たのだが、耐えられなかった。私はけっして完成度の高い映画だけが好きなわけではなく、むしろ粗削りでも強度のある作品を愛しているつもりだが、『ノルウェイの森』のトラン・アン・ユンとリー・ピンビン(撮影)の妥協なき映像の記憶があまりに鮮明だったこの日は、例え全く違う魅力のある作品であっても、あまりに見劣りがしてしまったのだ。

私は村上春樹の熱心な読者ではない。『ノルウェイの森』も初版を買って読んではいるが、何度も再読して耽溺したわけではない。また、私はミーハーな映画ファンであり、素敵な女優のワンシーンだけでその映画を絶賛してしまうような奴だが、『ノルウェイの森』の菊池凛子や水原希子はけっして私の好みではなく、そうしたときめきを覚えたわけではない。にもかかわらず、私は二度も映画館に足を運んだ。ただただ、この映画をスクリーンで観たい、そう思ったからだ。この映画にそれだけの魅力があったからだ。

12月11日、29日@ワーナーマイカルシネマズ津

蜷川幸雄演出/さいたまネクスト・シアター『美しきものの伝説』2011年01月25日 19時10分39秒

『真田風雲録』から1年余り。さいたまの若い演劇集団の二度目の公演に蜷川が選んだのは、大杉栄らが登場する大正時代を背景とした群像劇。初演は1968年、これもまた70年安保に向けて騒然としていた時代の空気や当時の若者たちの姿が重ね合わされる戯曲だ。巨匠のネクストシアターへの一貫した挑発。今回、横田栄治や原康義、飯田邦博らがゲストとして加わっていることも、単に上演する舞台の質を上げることだけが目的ではなく、若い役者たちに甘えを許さないためだろう。

そうした厳しい姿勢と同時に、無名の彼らに対しても演出家としての全力を尽くすのが蜷川の愛。本作のオープニングとエンディングは近年の蜷川作品の中でも屈指の美しさ。ゴールドシアターの役者も一部加わり舞台に深みを与える。

ネクスト役者陣の風貌にはまだまだ厚みが足りないが、大杉の妻、伊藤野枝を演じた深谷美歩が、屈託のない明るいエネルギーで説得力あり。

12月19日@彩の国さいたま芸術劇場インサイド・シアター

大人計画『母を逃がす』2011年01月26日 22時01分03秒

1999年の初演も観ているが、10年ぶりの再演はさすがにレベルが上がって観応えがあった。「性を描いて生殖に深入りする」松尾スズキの特色が際立った時代の作品を、10年経って腕を上げた劇団員たちが過不足なく演じて完成度が高い。阿部サダヲ・クドカン・荒川良々の掛合いなど、なんともスリリングで目が離せない。

初演時にはまだこの劇団にいなかった平岩紙が効果的なカードに成長してリク役を好演。その一方で初演と同じく少女トビラを演じた田村たがめが今回も素晴らしい。

12月25日@森ノ宮ピロティホール

作:中島かずき/演出:白井晃『ジャンヌ・ダルク』2011年01月27日 23時58分10秒

堀北真希の初舞台。時代に何かを背負わされたジャンヌ・ダルクというヒロインは、決して押しは強くないのに人気女優という立場に立たされてしまった、という雰囲気のある彼女になかなかふさわしくはある。

100人のエキストラを投入した戦争シーン等は見物だったが、それを除けば、白井演出はこういうプロダクションとしては地味すぎる気がした。衣装だけでももうちょっと華やかにした方がよかったんじゃないかな。

映画『海猿』大ヒットの伊藤英明、モデル上がりの長身が舞台に映えるかと思ったらオーラなく、これまた地味。

12月26日@梅田芸術劇場

東陽一監督作品『酔いがさめたら、うちに帰ろう』2011年01月28日 18時14分29秒

一連のサイバラ映画シリーズのひとつと位置付けてもいいが、正確には西原理恵子の夫だった故・鴨志田穣の私小説が原作。浅野忠信・永作博美の強力タッグで悪かろうはずはなかったのだが、いまひとつ魅力を感じなかった。

西原理恵子の自伝的作品群は、夢や希望に逃げ込むことが許されない貧しさや不幸に満ちてはいるが、常に鮮やかな色彩で彩られている。『女の子ものがたり』『パーマネント野ばら』といったサイバラ映画は、その色彩感覚がしっかりと映像に活かされていたから成功したのだろう。鴨志田原作のこ映画にはその独特の色彩を持ち合せていないために、アルコール依存症の啓発映画の域を出ることができなかったと思う。

1月4日@シルバー劇場