及川中監督作品『吉祥天女』2007年07月03日 14時01分26秒

失敗作。「原作の世界観をきちんと描く」としているが、羽衣伝説という意匠やヒロインのキャラクター、サスペンスもどきの展開にとらわれすぎて、まるで安っぽい2時間TVドラマみたい。

吉田秋生の原作漫画の核は、女性の人格を無視した男性による性暴力への怒りと憎悪である。この芯を外しては映画化の意味がない。主人公・叶小夜子は“犯される性”であることを逆手にとり、それを痛烈な武器に変えて闘いに勝つ。連戦連勝。そしてついには敵を完全に叩きつぶす。そんなヒロインを1980年代半ばに描き出したことにこそ『吉祥天女』の価値はある。

これをちゃんと撮れるのはやはり女性監督だろう。“血をこわがる”“男”ではダメなのだ。

7月1日@109シネマズ四日市

野田地図番外公演『THE BEE』(日本バージョン)2007年07月10日 19時40分52秒

2006年に野田秀樹が英語で書き下ろし、ロンドンで初演された舞台の逆輸入。英国人俳優によるオリジナルバージョンの来日に先立ち上演された、新しい日本語バージョンを観た(こちらは日本人キャスト)。

1976年に書かれた筒井康隆の先駆的な短編小説『毟りあい』を原作に、人間の持つ残虐な暴力衝動、暴力の連鎖、マスコミ=大衆の暴力性等をシャープに描き出す。『ロープ』同様、観客席の私たち=エンターテインメント亡者にも挑むような舞台である。

筒井原作は乾いたブラック・ユーモアが基本であり、特にその幕切れ等、落語のサゲを思わせるような洒脱さを感じさせるものだが、『THE BEE』はその展開をほぼ踏襲しながら、演劇の持つ直截性ゆえか、よりへヴィな印象。さらに野田が付け加えた、戯曲のタイトルにもなっている蜂のイメージが印象的。まとわりつくような羽音に恐怖感と苛立ちが増幅される。まさに悪夢のよう。

美術・照明を含めた演出の洗練度も抜群。英国バージョンはまた違った演出だそうだ。せっかくの来日公演を観に行けないのが悔しい。

7月7日@シアタートラム

蜷川幸雄演出『お気に召すまま』2007年07月12日 00時00分45秒

2004年に彩の国シェイクスピアシリーズとして上演された作品の再演。初演の舞台は「オール・メール・シリーズ」の第1弾でいわばトライアルだったし、若手俳優が中心だったこともあって未完成な感は否めなかったが、3年ぶりのリターンマッチは成功。初演時はいかにも“いっぱいいっぱい”だった主演・成宮寛貴が、男装するチャーミングなヒロインという難役を楽しそうに演じられるようになったのが何より。相手役・小栗旬も、この3年で経験を積み重ねただけに成宮をサポートする余裕も感じさせる。

芯がしっかりすればもともと蜷川組の手練れが揃った一座だけに厚みのある芝居になる。ニ幕七場、ジェイクイズ(高橋洋)の名ぜりふ「この世界すべてが一つの舞台、人はみな男も女も役者に過ぎない」に先立つ前公爵(吉田鋼太郎)のせりふがひときわ印象に残る。「この広大な世界という劇場には私たちが演じている一場よりもはるかに悲惨な芝居がかかっているのだ」。シェイクスピア劇を現在にリンクさせる蜷川芝居なればこそ、この幸福な恋愛喜劇の輝きが増すというものだ。

7月8日@シアターコクーン

劇団ダンダンブエノ『砂利』2007年07月17日 22時06分22秒

新進気鋭の劇作家・本谷有希子作品初見は、劇団ダンダンブエノへの新作書き下ろし(演出はやはり若手の倉持裕)。ダンダンブエノは近藤芳正、酒井敏也、山西惇のレギュラー陣+客演という陣容で様々な作家の作品を上演しているが、公演に先立ち時間をかけてエチュードを行うのを常としている。本谷の初の外部書き下ろしとなった本作も、そうしたエチュードの現場を踏まえてアテ書きされたもののようだ。

おそらく本谷有希子という作家の特質のひとつは、その観察眼にある。そしてこの『砂利』は、その観察眼の鋭さが遺憾なく発揮された作品というべきだろう。本公演で初めて小劇場の舞台への出演を果たした梨園の実力者・坂東三津五郎――、この優れた俳優の中にある“虚無”を射抜いた眼力こそ恐るべし。

「意外に普通でがっかりされる」役どころを与えられた片桐はいりも好演しているが、ひろいものは田中美里。ボケとキレのバランスが上々で予想外の出来。田中は本谷と同じ石川県の出身、けっして青空を見ることのない北陸の長い冬を知っている彼女たちにしか分からない何か――、どうやらそんなものがあるらしい。

7月14日@愛知県厚生年金会館

吉田大八監督作品『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』2007年07月18日 00時26分03秒

劇作家・本谷有希子のデビュー作であり、戯曲から小説にもなった作品が今度は映画化された(舞台は未見)。

地方出身、女優志望、クリエイターとしての才能――、物語のベースは本谷の自画像だろうが、やわな私小説ではなく、痛々しく壊れた登場人物たちのディティールを、ある種の愛情こめて描きつつエンターテインメントに仕上げた手腕はなるほど、注目されるだけのことはある。

本谷自身の弁とは異なるが、自意識過剰で女優志望、ただしホントは才能ゼロの姉・澄伽(すみか)以上に、姉の赤裸々な姿を漫画に描く欲望を抑えられない妹・清深(きよみ)に作者の姿を重ねてしまう。いびつな人々の深層を見てしまい、それを描かずにはいられない作家の業こそがこの作品の核だろう。

CMでキャリアを積んだ吉田大八監督は本作が長編劇映画デビュー作らしいが、原作の魅力を十二分に活かし成功している。主要キャスト(姉:佐藤江梨子、妹:佐津川愛美、兄:永瀬正敏、兄嫁:永作博美)のバランスも的確だ。

7月15日@シネリーブル梅田