萩生田宏治監督作品『神童』 ― 2007年06月05日 00時28分53秒
天才的なピアノの才能を持ちながら、それにふさわしい環境を失い、かつその才能をもてあましている少女“うた”と、音大志望の八百屋の息子“和音”が主人公。女子高生ロックバンドを描いた佳作『リンダリンダリンダ』のビターズエンド製作チームによるクラシック音楽映画である。
成海璃子が13歳の天才少女の不完全な有り様をvividに演じ、松山ケンイチも持ち味を活かした好演、旬の若手俳優が作品を牽引している。ピアノ演奏の吹き替えにも、クラシック界の俊英が協力しており、“うた”の演奏を担当しているのは実在の12歳(!)の神童だそうだ。
萩生田監督はNHK『中学生日記』やTBS『情熱大陸』等でキャリアを積んだ人らしく、説明的な描写を排除し、役者と音楽に表現させることを選んでいる。その作風は悪くはないのだが、全4巻の漫画原作ということを考えれば、もう少し観客に親切な作りでも良かったのではないか。多少の補助線を引いたとしても作品の価値を削ぐことにはならなかったと思う。
6月3日@四日市中映シネマックス
オムニバス映画『ユメ十夜』 ― 2007年06月06日 00時35分13秒
1908年に発表された夏目漱石『夢十夜』の映画化。「こんな夢を見た」で始まる夢日記のような10個の掌編を、ベテランから新鋭まで10人の映画監督が競作するオムニバス。
比較的忠実な映像化を試みたものから、作者・漱石の実像を絡めて精神分析的にアプローチしたもの、あるいはひとつの映像から新たな物語を紡ごうとするものなど様々。100年後のクリエイターから文豪・漱石への挑戦状、というのはおおげさだが、邦画好きにとっては各監督のテイストを楽しめる企画。
主演女優を魅力的に使った「第五夜」(監督:豊島圭介/主演:市川実日子)と「第九夜」(監督:西川美和/主演:緒川たまき)が好ましく、思わせぶりなムード作りより乾いたユーモアを選んだ「第六夜」(監督:松尾スズキ)と「第十夜」(監督:山口雄大)が面白かった。
6月3日@四日市中映シネマックス
井筒和幸監督作品『パッチギ! LOVE&PEACE』 ― 2007年06月07日 00時05分49秒
シネカノン李鳳宇・井筒和幸監督コンビによる『パッチギ!』続編は期待以上のパワーに満ちた娯楽作。
京都から東京・枝川へ移住し、難病の息子のために奔走するリ・アンソンとその家族、日本社会の縮図とも読める芸能界に飛び込んだ妹キョンジャ――、1970年代半ばを舞台にした物語に、アンソンの父リ・ジンソンが日本軍の徴兵を逃れ南洋へと逃走した1944年の物語が重ねられる。一篇の青春映画として完成していた前作では描ききれなかったものがあるからこそ作られた続編、よりいっそう俯瞰した視点から現代史をとらえたスケールを評価したい。同時期公開の石原慎太郎製作総指揮・脚本の映画に真っ向から喧嘩を売るあたりが、井筒監督らしいストレートさ。
メインキャストは一新されているが、キョンジャを演じた中村ゆりが望外の好演。
6月3日@109シネマズ四日市
蜷川幸雄演出『薮原検校』 ― 2007年06月12日 23時38分14秒
2005年の『天保十二年のシェイクスピア』に続く“井上ひさし×蜷川幸雄”第二弾は、極悪人・薮原検校の一代記。
この作品は、木村光一演出による地人会の舞台が初演以来定評あるものらしいが、私は観たことがなく今回初見。執筆した1973年当時はまだ戯曲書きに本腰を入れていたわけではなかったと井上ひさし自身は語っているが、どうしてどうして、34年前の若き劇作家はとんでもなく野心的な企みに挑んでいる。
講談ネタが元にあるとはいえ、江戸時代の盲人社会の特殊性を十分な考証のもとに描くのみならず、日本の伝統芸能(特に語り物)が持つ表現力を巧みに取り込むとともに、シェイクスピアばりの猥雑かつ活き活きとした言葉を駆使して、ブレヒトもどきの音楽劇を仕立て上げる、なんてことを他の誰がやったか。巨匠蜷川が遅まきながら食指を動かしたのもむべなるかな。
タイトルロールには蜷川組二度目の参加になる古田新太。ニンに合った役どころでチャーミングな悪党を造形。田中裕子も悪女役を楽しげに演じる。メインキャスト以外はひとり何役も演じ分けるという戯曲の指定をクリアするために集められた芸達者たちの技芸も堪能。『天保…』に続いて音楽を担当しているのは宇崎竜童。舞台袖に陣取り、ギターの生演奏で役者たちと共演した赤崎郁洋は、宇崎子飼いのミュージシャンのようだ。
この日は大楽。カーテンコールには蜷川も舞台へ登場し、役者たちとともに喝采を浴びていた。
6月10日@シアターBRAVA!
市川準監督作品『あしたの私の作り方』 ― 2007年06月15日 00時20分28秒
ともだちというほど親密ではなかった小・中学校の同級生ふたり。今は別の土地に暮らす彼女たちの間ではじまった携帯メールでのやりとり。ありきたりの受験失敗、ありきたりの両親の離婚、ありきたりのいじめ――。生き難い日常をやりすごし、またあしたを生きるために、彼女たちは「役割を演じる」ことを身につけ、そして悩む。少女たちの成長過程を、市川準監督が端正かつ優しげなタッチでトレースした作品。
主演作が相次いで公開されている成海璃子。選ばれた「ハブ」(いじめの対象)でもなく選ばれた人気者でもない、さほど目立たない少女、という役どころを演じるには美少女に過ぎるが、野暮は言うまい。
6月10日@シネリーブル梅田