行定勲監督作品『春の雪』2005年11月06日 22時45分58秒

惜しい。脚本や美術を含めたスタッフワークはきちんとしているし、脇を固めるキャストも手堅い。三島原作は未読だが、私のような半可通を納得させられる程度には三島テイストも活かされている。だが、肝心の主演二人に色気が足りない。幼馴染の没落華族のお姫(ひい)様との微妙な距離感、彼女が宮家へ嫁ぐことが決まってからの許されない逢瀬。これだけの設定がありながら官能性に乏しいのだ。

妻夫木聡と竹内結子の起用は、年齢・実績・ネームヴァリュー等を考慮すれば間違いだとは思わないが、物語にふさわしいだけの情感が表現できなかったのは、役者の育成も含めた日本映画全体の力不足のせいだろう。

竹内結子については、ニンが違うということもあるが、それ以外のファクターでも損をしている。例えばカメラだ。

この映画の特色のひとつに外国人カメラマン、李屏賓を起用したことがある。現代の我々から三島の美意識というフィルターを通して見た大正という時代を、エキゾチックなものとして捉えるという意味ではこの戦略は効果をあげている。しかし女優が美しく撮れていない。

カメラマンには自国の女の肌色を最も美しく撮る本能があるという。李屏賓は台湾のカメラマンであり、同じアジアのうちなのだが、それでも日本人女優の肌を、メイクも含め、最上の質感で捉えることはできなかったようだ。近年、アジア各国の共同制作映画が盛んになってきているが、こうしたディティールの感覚の違いは、今後ひとつの課題になるかもしれない。

11月5日@ワーナーマイカルシネマズ津

パク・チャヌク監督作品『親切なクムジャさん』2005年11月14日 23時40分53秒

この秋、最も期待していた一作だったが、その期待にたがわぬ出来で大満足。

『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』に続く“復讐三部作”完結編という位置付けだけに、ストーリー・映像・音楽等、パク・チャヌクの作家性が全開でありながら、同時に、まごうかたなきイ・ヨンエ主演のスター映画でもあるところが凄い。

正統派美人女優の新たな挑戦としての悪役・汚れ役というのはありがちなパターンだが、パク・チャヌクはぬけぬけと、イ・ヨンエの既成イメージを最大限に利用しながら、独自の復讐譚をかたちにしてみせる。エンターテインメントとはかくあるべきかな。

天使の微笑と悪魔の冷酷さ、シリアスとユーモア、リアルと非リアル。様々な相反するイメージを重ねながら織り上げられた、とんでもなく振幅の大きな映画。この世界に身を浸す快感はこのうえないものである。

11月13日@109シネマズ名古屋

栗山民也演出『母・肝っ玉とその子供たち~三十年戦争年代記』2005年11月22日 23時26分11秒

主演・大竹しのぶの個人技によって、ある水準には到達した舞台なのだろうが、ブレヒト劇として考えるどうなのだろう? 情感が勝ちすぎて、戯曲本来のクールな批評性が後退しているように思える。

本作をモチーフのひとつにした松尾スズキの傑作『キレイ』(片桐はいりが演じたカネコキネコ=母・肝っ玉ことアンナ)の方が、よほどブレヒト的だったのではないだろうか。

11月20日@兵庫県立芸術文化センター中ホール

二兎社『歌わせたい男たち』2005年11月23日 22時50分31秒

永井愛の作・演出で、このテーマ(教育現場における日の丸掲揚・君が代斉唱問題)で、このキャスト(戸田恵子・大谷亮介・近藤芳正他)なら傑作が誕生するのではないかと予想し劇場に足を運んだのだが、やっぱり傑作だった。

チラシ裏の永井のコメントによれば、本作は、当初ロンドンの劇場との提携公演に向けた新作として準備されながら“ロンドン市民に理解させるのは不可能”として丁重に断られたものだという。かほどに不条理な状況が、現在の日本の教育現場の現実だということ自体が、既に演劇的だと思う。

わずか5人の登場人物だけで、様々な考え方や立場、世代の相違等を巧みに織り込んだ作劇術は見事。主な舞台となる学校の保健室(これが奇妙に歪んでいる)に、日の丸が掲げられた屋上の一角(終盤わずかに使用される)を重ねた装置も優れている。

役者も穴がなく安心して観ていられる。校長役の大谷亮介も特筆ものの好演だが、シャンソン歌手崩れで、「君が代伴奏」のために雇われたノンポリの音楽教師を実にチャーミングに演じた戸田恵子がさらに素晴らしい。

11月23日@シアタードラマシティ

深作健太監督作品『同じ月を見ている』2005年11月25日 19時23分56秒

いくつかの収穫はあるものの、作品としては中途半端。せっかく主人公二人のデリケートな関係性が描けているのに、粗すぎる筋立てが主題を曖昧にしている。企画と、シナリオの詰め方が間違っているのだろう。

ケレンや通俗を恐れない深作演出は父譲りの潔いもので好感が持てる。大衆芸術としての映画というジャンルを考えた場合、貴重な才能であり、彼にふさわしい企画を与えるプロデューサーが望まれるところだ(奥山和由なぞ合うと思うのだが)。

窪塚洋介、エディソン・チャンの主演二人、助演の山本太郎は好演。窪塚の映画復帰がもう少し早ければ『春の雪』の清顕役が出来ただろうに。惜しいことである。

11月24日@109シネマズ名古屋