大人計画『母を逃がす』2011年01月26日 22時01分03秒

1999年の初演も観ているが、10年ぶりの再演はさすがにレベルが上がって観応えがあった。「性を描いて生殖に深入りする」松尾スズキの特色が際立った時代の作品を、10年経って腕を上げた劇団員たちが過不足なく演じて完成度が高い。阿部サダヲ・クドカン・荒川良々の掛合いなど、なんともスリリングで目が離せない。

初演時にはまだこの劇団にいなかった平岩紙が効果的なカードに成長してリク役を好演。その一方で初演と同じく少女トビラを演じた田村たがめが今回も素晴らしい。

12月25日@森ノ宮ピロティホール

蜷川幸雄演出/さいたまネクスト・シアター『美しきものの伝説』2011年01月25日 19時10分39秒

『真田風雲録』から1年余り。さいたまの若い演劇集団の二度目の公演に蜷川が選んだのは、大杉栄らが登場する大正時代を背景とした群像劇。初演は1968年、これもまた70年安保に向けて騒然としていた時代の空気や当時の若者たちの姿が重ね合わされる戯曲だ。巨匠のネクストシアターへの一貫した挑発。今回、横田栄治や原康義、飯田邦博らがゲストとして加わっていることも、単に上演する舞台の質を上げることだけが目的ではなく、若い役者たちに甘えを許さないためだろう。

そうした厳しい姿勢と同時に、無名の彼らに対しても演出家としての全力を尽くすのが蜷川の愛。本作のオープニングとエンディングは近年の蜷川作品の中でも屈指の美しさ。ゴールドシアターの役者も一部加わり舞台に深みを与える。

ネクスト役者陣の風貌にはまだまだ厚みが足りないが、大杉の妻、伊藤野枝を演じた深谷美歩が、屈託のない明るいエネルギーで説得力あり。

12月19日@彩の国さいたま芸術劇場インサイド・シアター

トラン・アン・ユン監督作品『ノルウェイの森』2011年01月24日 20時48分54秒

日本での公開初日に映画館に駆けつけた。ものすごく映画的でありつつ小説世界に浸ったような満足感もあり。日本の映画ではないようでもあり日本映画黄金期の端正な美しさも備えている。

村上隆氏(=Twitterでこの作品を絶賛していた)の著書『芸術闘争論』の中に「作品作りは執念の具現化」という表現があるが、『ノルウェイの森』はまさにそのような映画だった。全ての場面、構図、カットが徹底的にこだわり抜かれている。そのこだわりは計算と呼ぶのは似つかわしくない、やはり執念と呼ぶしかないものだ。だからこそこの映画はとてつもなく美しい。

実は『ノルウェイの森』を観た翌日に、別の、一部ではとても高い評価を得ている映画を観たのだが、耐えられなかった。私はけっして完成度の高い映画だけが好きなわけではなく、むしろ粗削りでも強度のある作品を愛しているつもりだが、『ノルウェイの森』のトラン・アン・ユンとリー・ピンビン(撮影)の妥協なき映像の記憶があまりに鮮明だったこの日は、例え全く違う魅力のある作品であっても、あまりに見劣りがしてしまったのだ。

私は村上春樹の熱心な読者ではない。『ノルウェイの森』も初版を買って読んではいるが、何度も再読して耽溺したわけではない。また、私はミーハーな映画ファンであり、素敵な女優のワンシーンだけでその映画を絶賛してしまうような奴だが、『ノルウェイの森』の菊池凛子や水原希子はけっして私の好みではなく、そうしたときめきを覚えたわけではない。にもかかわらず、私は二度も映画館に足を運んだ。ただただ、この映画をスクリーンで観たい、そう思ったからだ。この映画にそれだけの魅力があったからだ。

12月11日、29日@ワーナーマイカルシネマズ津

劇団☆新感線三十周年興行 秋 豊年漫作チャンピオンまつり『鋼鉄番長』2010年12月13日 13時19分12秒

劇団旗揚30周年の舞台で主演・橋本じゅんと客演・池田成志がまさかの故障離脱。神はしばしばこの劇団に大きな試練を与える。そしてそれを乗り越えてゆく逞しさも新感線らしい。

東京公演の途中で急遽、主人公・兜剛鉄(俺が2号だ!)を演じることになった三宅弘城。大阪では代役であることを感じさせない堂々の主演ぶり。もちろん橋本じゅんとは個性が違うから、キャスト変更に伴って作・演出のいのうえひでのりがきちんとアダプテーションしたからだろうが、それにしても大したものだ。成志に代わった河野まさとも十分。劇団員の底力を示した。

公演中に放映されたNHKハイビジョンの新感線特番を見て、改めていのうえひでのりに刻み込まれた「お楽しみ」のDNAが、我が同世代者共通のものであることを確認。『8時だョ!全員集合』や吉本新喜劇に育てられ『がきデカ』インパクトを受けた私たちに、「小六魂」をキャッチフレーズとしたこの作品が楽しくないわけがない。

個人的には坂井真紀の演じた浅見山サツキ(『スケバン刑事Ⅱ少女鉄仮面伝説』パロ)と、高田聖子が演じた権田原ユカ(『愛と誠』高原由紀パロ)がツボ。

11月23日@シアターBRAVA!

井上剛監督作品『その街のこども劇場版』2010年12月12日 11時01分32秒

NHKで放映された阪神・淡路大震災15年特集ドラマが異例の劇場公開。今年初めの放送時点で気になってHDDに録画はしたのだが、観るタイミングを逸しているうちに劇場版の情報が入ったので、関西先行公開まで待って映画館に出かけた次第。

大勢の人々を巻き込んだ未曾有の大災害。素材自体は悲劇なのだが、この作品はある種の幸運に恵まれたものだと感じる。極めてデリケートな題材が、こわれものを扱うような繊細な手つきで映像に紡がれてゆく。渡辺あや脚本と、被災体験を持つ森山未來、佐藤江梨子の演技は、まるでドキュメントと見紛うようだ。何かに導かれるようにこの作品に集まった才能たち、その精妙なバランスによって成り立っている、ささやかな奇跡のような映画だと思う。

11月23日@シネ・リーブル梅田