蜷川幸雄演出『音楽劇 ガラスの仮面~二人のヘレン~』 ― 2010年09月17日 20時02分57秒
2年前に蜷川幸雄がこの演劇漫画の最高峰の舞台化に挑んだ時、誰もが注目する二人の主役をオーディションで選んだ。それは「新しい才能に出会いたい」という巨匠の意向であると理解していたが、今回の続編で、大和田美帆と奥村佳恵の成長がそのまま北島マヤと姫川亜弓の成長にシンクロしている様を観て、改めてその卓見に感服した。この二人は“無名の新人”が演じ始めるべき役だったのだ。
特に奥村の成長が著しい。第一作ではまだ初舞台で固さが目立ったが、今回は天才・北島マヤに立ち向かう努力型のサラブレッドの苦悩をくっきりと描いてみせる。前半から次々に展開される多彩な劇中劇では、漫画原作にはない『テンペスト』で実際の蜷川演出版を思い出させる魚のようなキャリバンを演じて出色。幕間に大阪の観客が「“亜弓さん”、うまなったなあ」と思わず口にするのが聞こえてきた。まるで“劇中の観客”がそこにいるよう。
後半は『奇跡の人』対決をたっぷり。ヘレン役を競う大和田・奥村、ともに全編を演じさせたくなるほどの華が出てきた。サリバンを演じる姫川歌子役の香寿たつきもいい。漫画原作では主役たちほどには書きこまれていない役だが、優れた役者が演じれば、登場場面は多くなくても厚さや深みが出る。ここらが演劇の強さだ。
第一作では幻の“紅天女”が天空を舞うラストシーンが鮮烈だったが、今回のラストで飛ぶのはマヤと亜弓だ。舞台の上、遥か高く、誇らしげに。それは二人の伸びやかな成長ぶりを象徴するような素敵な光景だった。
9月6日@シアターBRAVA!
井上ひさし作『黙阿弥オペラ』 ― 2010年09月18日 23時51分20秒
本当は『木の上の軍隊』という新作が上演されるはずだった。だが井上ひさしはそれを書き上げることなく世を去った。代わりに上演する作品として自らこの『黙阿弥オペラ』を選び、演出に栗山民也を指名したそうだ。
評伝劇と言うよりも、江戸から明治への移行期に生きる市井の人々の中に黙阿弥が混じっているという作りのお話。こまつ座とホリプロによる製作だが、これまで蜷川演出下で井上作品に挑んできた吉田鋼太郎や藤原竜也が参加しているのが新味。藤原君の起用も井上ひさしの指名だそうだが、それに応えてひとつ大人になった芝居をしている。他にも北村有起哉や松田洋治、大鷹明良ら腕利きが揃って賑やかに芝居をすすめる。
中盤から、登場人物たちは新たな時代の“経済”の渦に巻き込まれ、銀行設立というバブルな夢に狂奔し始める。一人立ち止まる黙阿弥。国益又は自分たちの利益のために安直なオペラ歌舞伎を強要する友たちに黙阿弥が突き付ける問いが刺さる。
それは「御見物衆のため」か。 そこに「御見物衆の願い」はあるか。
いまさらながら巧みな作劇術である。
9月12日@シアタードラマシティ