鴻上尚史著『ヘルメットをかぶった君に会いたい』2006年10月03日 00時18分49秒

読了したのは1ヶ月半も前なのだが、やはりここに記録だけはしておくべきだと思いなおした。私にとってこれほどシンパシーを覚える作品も稀だからだ。23年前、第三舞台『デジャ・ヴュ』で鴻上作品に出会った時から感じていたもの、その核に触れた思いがする。ひょっとしたらこうした感慨こそ、作者の術中にハマったということなのかもしれないけれど。

昭和30年代生まれ、遅れてきた世代のコンプレックスを、全共闘の記録映像に残された“ヘルメットをかぶった彼女”の消息を追う過程――これを鴻上は“恋愛”と位置づける――に集約し、第三舞台創世期につながる自伝的エピソードも交錯させながら、リアルタイム・ノンフィクション風に描いてみせる。

2006年5月、野田秀樹『白夜の女騎士』が蜷川演出によりその隠された本質を露にされたのとほぼ同時に、この小説が上梓された偶然も興味深い。

8月14日読了

村上龍著『半島を出よ』2005年08月21日 23時00分36秒

最近は小説の単行本を買うことはめったになくなったのだが、村上龍は新作を読み続けている数少ない作家のひとり。上下2巻の長編なので手をつけるのこそ遅くなったが、詳細な取材に基づいた前半の構築力、一気に読ませる後半の展開と、期待どおりの面白さに満足。

章ごとに、描写の中心になる人物が代わってゆくスタイルがひとつの特徴。この物語には複眼的な視点が必要と判断したのだろう。そのため登場人物が非常に多くなっているのだが、個々の人物造形に厚みがあるために興がそがれることはない。ことに中年以上の人物や、けしてヒロイックではない人物の描写に、以前にはなかった魅力が出るようになった。これが本作の成功のひとつの要因だろう。村上龍独特のエネルギーとある種の稚気は保持されたまま、成熟も感じさせる作品になっている。

8月18日読了

全然関係ないけど、最近読んだ小説でもうひとつ面白かったのは町田康『告白』。主人公(河内音頭で有名な“河内十人斬り”の城戸熊太郎)の心理に徹底的に密着し、これを独特の文体で、詳細かつミもフタもなく描いて圧巻である。