中村高寛監督作品『ヨコハマメリー』2006年10月04日 00時03分36秒

新人映像作家による非常に優れたドキュメンタリーである。

横浜の人々から「メリーさん」と呼ばれた老いた街娼がいた。またの名を「皇后陛下」。気位が高く、芸術を愛し、施しを受けることは嫌った孤高の人。友人として、隣人として、あるいは表現者としてメリーさんに関わった人々の証言を通じて、彼女の半生を辿っていく。その過程で浮かび上がってくる、日本の戦後史、横浜という街の物語、そして人々の生。シャンソン歌手永登元次郎のパートなど、さながら“リアル『メソン・ド・ヒミコ』”である。

素材が良く、視点が良く、映画としての構成も十分に練られている。監督が、作家としての自我よりも、映像そのものが持つ力を信じていることがこの映画に強度を与えているのだと思う。最晩年、白い仮面を脱いだメリーさんの穏やかな微笑みが忘れ難い。

横浜ほどエピソードに満ちた町ではないが、私の地元にも1970年代、「メリーさん」と呼ばれていた人がいた。中心街のバス停留所待合室に座っていた彼女(といっても男娼だったのではないかと思っているのだが)は、白づくめの本家(?)メリーさんとは違って、いつも赤いドレスを着ていた。その停留所も今は新しいビルになっている。

9月29日@四日市中映シネマックス