男子はだまってなさいよ!『天才バカボン』2010年08月04日 23時15分37秒

この劇団(?)は初見。原作は言うまでもなく赤塚不二夫の不朽の名作。舞台化は初? 主要キャストは大人計画(バカボンのパパ:松尾スズキ、バカボン:荒川良々、ウナギイヌ:皆川猿時)で、バカボンのママ役で釈由美子が初舞台(なぜこの作品で??)という豪華?版(坂田聡がレレレのおじさん)。

そのわりには気負いもないぬるい舞台。名作を凌駕せんという気迫とか原作への熱いリスペクトとかはなし。しかし、この程度の作品で『天才バカボン』の舞台化を標榜していいのか。

若手の企画につき合った大人計画組もどんな気分なのやら。皆川は相変わらず献身的な舞台姿だったが、松尾・荒川はフィットしそうでズレた印象。私の中のバカボンのパパは、71~72年のアニメ版によって決定づけられており、声優・雨森雅司あってこそだったことを確認できたのは収穫。

ナマ釈ちゃんも期待したほどじゃなかった。

7月31日@本多劇場

小野寺修司作・演出『空白に落ちた男』2010年08月06日 19時07分33秒

2008年に今はなきベニサン・ピットで初演され好評だった舞台がPARCOで再演された。元「水と油」の小野寺修司とバレエダンサー首藤康之が組んで生まれた作品。セリフのない90分間。小野寺・首藤を含めた5人の卓越したダンサーたちが繰り広げる身体表現を何と名付ければいいのだろう。

濃密な時間を形造るのは出演者だけではない。cobaの音楽と松岡泉の美術がそれに拮抗する。後半の“踊る本棚”は圧巻。

7月31日@PARCO劇場

山崎裕監督作品『トルソ』2010年08月07日 13時06分35秒

1940年生まれで、ドキュメンタリーや是枝裕和監督作品を撮ってきたカメラマンの初監督作品。『カナリア』もこの人が撮っていたようだ。

いい意味で自主製作映画のような真摯さが感じられるトーンには好感が持てるが、監督が35年前から温めていたという「トルソ」というモチーフを現代女性の物語として作品化したのは失敗だったのではないか。こうしたジャンルでは優れた女流監督が輩出している昨今、山崎監督が描くヒロインは男性目線の古びた想像としか感じられない(女性脚本家が手伝ってはいるようだが)。同時期に撮られた盟友・是枝監督の『空気人形』の方が自らの妄想に正直な気がする。

この作品にリアリティがあるとすればヒロインとその妹を演じた渡辺真起子と安藤サクラという二人の女優の存在によるものである。

7月31日@ユーロスペース

野田地図『ザ・キャラクター』2010年08月08日 19時00分55秒

東京芸術劇場の芸術監督に就任した野田秀樹が、初めて野田地図名義でおくる新作は驚くほどの直球。公立劇場の芸術監督としての責任感によるものか。

あの日、午前8時9分に東京に鳴り響いたサイレンの記憶。ヒロインを演じる宮沢りえがいい。06/07年の傑作『ロープ』でのナレーションのように、彼女を憑り代として、観客はあの事件にいたる物語をアンリアルな表現によってリアルに追体験し、それが遠い誰かの物語ではないことを知る。

「夢の遊眠社」時代、その作品群を少年性というキーワードで語られた野田秀樹が、今は私たちの幼さを切る。

8月1日@東京芸術劇場

若松孝二監督作品『キャタピラー』2010年08月22日 00時14分30秒

満員のシネマスコーレ。重く、かつ突き刺さるような傑作を堪能。

日本のかつての戦争を凝視しつつ、同時に極めて現在形の諸問題や普遍的なテーマにも接続している。強力な反戦映画でありつつ、反戦映画の枠を超えた作品だ。そんな離れ業を実現しえたのは、監督・若松孝二の強靭な思想と、ベネチアが最優秀女優賞で讃えた寺島しのぶの見事な演技があったからこそだろう。

日中戦争で四肢を失った男を演じるのは大西信満。若松監督の前作『実録・連合赤軍』で坂東國男を演じた男優という予備知識は持っていたが、あれ? 『赤目四十八瀧心中未遂』で主人公・生島を演じた大西滝次郎だったのか。芸名を変えていたので『連赤』を観た時には気がつかなかった。寺島・大西のコンビは『赤目』と本作という二つの傑作で共演したことになるのだな。改めて、拍手。

追記

劇中に幾度も流れる“大本営発表”と若松孝二の前作『実録連合赤軍』で描かれていた若者たちの言葉が哀しいくらいに似ていた。

8月19日@名古屋シネマスコーレ